事務局長
荒井 恒一 ARAI KOICHI
日本商工会議所は設立以来、時代の移り変わりとともに名称・体制を変えながらも活動を継続、発展させてきました。いまでは全国515の商工会議所、125万事業者(2023年4月現在)のネットワークを有し、「中小企業の活力強化」と「地域経済の活性化」を両輪とした日本の成長をミッションに様々な活動を展開しています。
日本商工会議所の事業は、主軸となる政策提言活動をはじめ、現場で直接中小企業・地域を支える各地商工会議所のサポート、各国首脳・経済人との民間経済交流、検定事業を通じた産業人材の育成など多岐にわたります。これらの根底にあるのは中小企業・地域が抱える様々な課題の解決とそれによって日本を元気にすることであり、いずれの事業もこの目的に則したものと言えます。
現代は、先行き不透明な状況が一層強まっており、中小企業や地域、商工会議所を取り巻く課題も複雑化しています。多難・不透明な時代の中で「中小企業の活力強化」と「地域経済の活性化」を達成するためには、前例に囚われることなく、変化に柔軟に対応していかなければなりません。
そのためには、日本商工会議所の職員一人ひとりが、地域の第一線で活動する各地商工会議所および会員企業の皆様と密にコミュニケーションを取り、「いったい現場で何が起きているのか」「何を求められているのか」をタイムリーに把握できなければなりません。
そして、課題解決に向け、自分たちが何をしなければならないのか考え、各地商工会議所および会員企業の皆様、中央省庁などの関係者の皆様と関係を構築し、理解・協力を得ながら、自立的に行動していく必要があります。
日本商工会議所は2022年に創立から100周年を迎えましたが、次の50年、100年も必要とされる組織であるためには、職員一人ひとりがこうした力を持っていなければならないと考えています。次代を担う皆様にもこうしたポテンシャルを期待しています。
日本商工会議所の事務局は全体で120名規模の組織です。1人ひとりの役割が大きいため、若いうちから責任のあるスケールの大きな仕事を任せていきます。
私自身もこれまでに様々な経験をしました。1988年に日本商工会議所へ入所し、最初に産業部調査課(現・産業政策第一部)に配属になり、地域経済を迅速的確に把握するための新たな調査を立ち上げるプロジェクトを担当しました。当時も多くの機関が景気調査を行っていましたが、どうしても集計に一定の時間が必要になり、調査時点と結果の公表時点のタイムラグが発生します。経済情勢を元に経済政策に関する意見提言を取りまとめ、政府の政策に反映させるためには、足元の景気動向を迅速に把握することが重要になります。
当時は今のようにパソコンも一般的ではなく、全国からファクシミリで送られたデータを直接コンピュータに取り込むシステムを導入して、調査から1週間程度で集計分析を行い、結果を公表する「LOBO調査(「商工会議所早期景気観測システム Local Business Outlook」の略)」を立ち上げました。日本商工会議所会頭が記者会見で調査結果を元に最新の景気動向を述べるのを見て、調査担当者として誇らしく感じたものです。現在ではWebを介した形となっていますが、調査開始以来30年以上にわたり、日本商工会議所における景気認識のベースとなっています。
1998年には、政府機関に出向する機会を得ました。出向先は内閣直属の中央省庁等改革推進本部事務局。2001年に中央省庁が再編されることが決まり、その準備のために中央省庁や民間企業、経済団体等から合わせて150名ほどが集められました。私たちの任務は内閣府をはじめとする1府12省庁の業務内容や組織を定める法律案を作成すること。旧府省庁が行ってきた業務内容の整理、新府省の役割の規定、法案の作成や審査、閣議決定後は国会審議への対応など、時には深夜に及ぶこともありましたが、国の行政組織の再編という大変ダイナミックな仕事に関わることができました。2001年1月6日に中央省庁が再編された時には、新たな国の形づくりに貢献できたということで、とても感慨深いものを感じました。当時の仲間とは、25年近く経つ今でも時々会って酒を酌み交わしながら、仕事やプライベートの話などをして、刺激を受けつつ楽しい時間を過ごしています。
最近では、2018年の事業承継税制の抜本拡充が強く印象に残っています。中小企業経営者の高齢化が進み、円滑な事業承継を可能とする環境整備が大きな課題となっていました。中小企業の大半は上場していませんので、株式が証券市場で売買されることはありません。事業承継の際には、その企業の経営状態などを反映した一定の算定式から算出される株価に基づいて株式価値を計算し、後継者に相続税や贈与税が賦課されることになります。会社の株式は経営権そのものですから安易に換金できませんが、企業の経営状態が良いほど株価は高く評価され、後継者は多額の税負担が必要となり、これが事業承継を阻害する一因と指摘されてきました。
日本商工会議所では、全国の商工会議所のネットワークを活用して事業承継の実態を調査し、また手分けをして全国各地の事業所を訪ね歩いて生の声を集め、それを意見として集約し、政府・与党に強く働きかけました。さらに中小企業経営者による「抜本拡充推進大会」を開催するなど、全国の商工会議所を挙げて活動を展開した結果、その年の税制改正において、事業承継円滑化のための税制は抜本改正され、使いやすい仕組みになりました。その後、新型コロナウイルスの影響を受けながらも、事業承継税制は毎年3千件程度の申請がなされるなどコンスタントに活用されており、後継者難に直面する中小企業の事業承継の円滑化に資する制度改正に貢献できたと感じています。
私の経験をいくつかご紹介しましたが、このように日本商工会議所は、幅広いステージを持ち、ほかでは決して味わえないやりがいがある職場です。ぜひ私たちとともに「中小企業の活力強化」と「地域経済の活性化」に取り組んでいきましょう。志のある皆様とともに働けることを楽しみにしています。